はじめに
ふと手に取り、読んでみましたので、書評を書きたいと思います。
昨今、人工知能や自動運転、FinTech、DX(デジタルトランスフォーメーション)など、新しい科学技術に関するニュースを見聞きしない日はないほど、最新の科学技術が身近なものになっています。
そういった話題で、よく聞かれるのが「日本はイノベーションが不得意で、高品質・大量生産は得意」ということです。表現の違いはあれど、概ね同じようなことを一度は聞いたことがあると思います。
特に、品質や大量生産は、トヨタ生産方式に代表されるように日本のお家芸のように言われることもあります。
果たして、本当に、日本は、高品質・大量生産が得意なのか。高度経済成長が終わった今の日本は、他国に比べて抜きん出ているのか、疑問に思い本書を手に取りました。
書籍
紹介する本は、日本実業出版社『勤勉な国の悲しい生産性』ルディー和子 著です。2020年6月に出版されています。
リンクhttps://www.njg.co.jp/book/9784534057785/
著者について、簡単に説明します。
ルディー和子(るでぃー かずこ)
https://www.njg.co.jp/book/9784534057785/
ビジネス評論家。立命館大学経営大学院経営管理研究科教授。セブン&アイ・ホールディングス社外監査役。米化粧品会社エスティローダー社マーケティングマネジャー、タイム・インク/タイムライフブックス部門ダイレクトマーケティング本部長を経て、ウィトンアクトン社代表取締役。日本ダイレクトマーケティング学会副会長。
外資系会社での経験も豊富で、現在は、セブン&アイ・ホールディングス社外監査役をされているようです。
書評
それでは、書評に入りたいと思います。
著者の主張には、定量的なエビデンスが明記されており、説得力があると感じます。
また、人間が普段感じているが、言語化出来ないいないことを表現することが上手く、読んでいて引き込まれる箇所がいくつもありました。
時間からの解放
例えば、次のような表現です。
真に人間が求めているのは時間からの解放だ。
『勤勉な国の悲しい生産性』ルディー和子 著 p53
人間は時間から解放されたいと願っている。
『勤勉な国の悲しい生産性』ルディー和子 著 p78
普段から時間がない、忙しいと言っている人に限って、物事を先延ばしにしているが、本来は、物事そのものに対する意欲云々ではなく、その物事に取り組むことによって犠牲になる時間やそれに掛かる費用を捻出することにかかる時間など、時間という概念そのものから離れたいと人間は望んでいると考えさせられる。
確かに、毎日の長時間勤務をしているサラリーマンが休日や長期連休を望むのは、労働からの解放ではなく、時間からの解放なのかもしれない。
仕事は、必ず時間の制約が付きまとう。いつまでに仕事を仕上げて、何時に打ち合わせがあり、いつまでに営業成績を達成しなければならないか。
常に時間の要素があり、その制約や目標から逆算して、いつまでに何をしないといけないか自ずと決まってくる。そうなると、今からの10分、30分、1時間で何をどこまでやらないといけないか見込みがたち、その将来に疲弊しているのではないかと感じた。
土日や長期連休は、その時間的な制約から解放され、いつ何をしても良い。労働から解放された自由と捉えることもできるが、休日となれば、仕事ではない別の労働がある。
しかし、その労働は、会社でする仕事としての労働をするときと、大きく心理的に異なることはよく理解できるのではないかと思う。
つまり、土日に洗車することと、平日にプレゼン資料を作ることでは、全く前者の方が心にゆとりがあり、前向きな気持ちで取り組める。この違いは、時間に対する制限の強さにあると思う。
洗車は、土日の間のどの時間帯にしても良い。土曜日の早朝にしても、日曜の昼下がりにしても選択の余地が残されているわけだ。
しかし、会社のプレゼン資料は、打ち合わせ時間が決まっており、その時間までに上司の確認・承認が幾度となくあり、スケジュール通りに進めなければ、すぐに失敗してしまう。
つまり、すべての作業の最重要かつ最優先の仕事で、なる早で取り組まなければならない。
労働と余暇
また、著者は、日本人の労働意識について、次のように述べている
日本人は余暇の過ごし方を知らないから、あるいは、慣れていないからとも考えられる。
『勤勉な国の悲しい生産性』ルディー和子 著 p144
労働しないとつらくなるという心理を明らかにするもう一つの説は、日本人は、労働すること自体が論理的かる道徳的だと思っているからというものだ。
『勤勉な国の悲しい生産性』ルディー和子 著 p53
余暇を知らない日本人、または、内面的に追い込まれるようにして働く日本人、どちらもポジティブな印象を受ける日本人の姿ではないように感じた。
三方よし
商売やビジネスの世界で良く聞く「三方よし」というのは、浄土真宗に由来しているとのことである。
近江商人の「三方よし」の考え方は、浄土真宗の「自利利他」の教えによる。自利とは、自己の修行により得た功徳を自分だけが受け取ることをいい、利他とは、自己の利益のためでなく、他の人々の救済のために尽くすことをいう。この両者を完全に両立させた状態に至ることを「自利利他円満」といい、これは浄土真宗だけでなく、日本に伝わった仏教の理想とされる。他人の幸せは自分の幸せというふうに、二つを分けることはできないということだ。
『勤勉な国の悲しい生産性』ルディー和子 著 p152,153
相手に徳を積ませるという考えて行動しなければ、巡り巡って自分に不利益を被るということは、誰しも経験や思い当たる節があるのではないだろうか。
まとめ
日本の開発現場にいると、無意識のうちに「日本は生産性が高い」と思いがちだったが、改めて本当にそうなのか、考え直すきっかけになりました。
また、日本人の労働に対する美徳の意識からくる義務感や責任感で、自らを労働に向かわせる傾向があるのではないかと感じました。
この日本人独特の意識が、働きづらさや生きづらさを感じさせる要因の一つになっているのではないかとも思いました。
ぜひ興味がある方は、読んで見てください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。